三月に入り、
首都近郊の公園を歩いていると、
ひと足早く咲いた桜が青空に映えていました。まだ冷たい風のなかで、淡い花びらだけが
春を先取りしている。その姿に、
思わず足を止めました。
ニュースでは
桜の開花予想が報じられ、
「桜前線」という言葉が再び私たちの暮らしに戻ってきます。しかし桜は、ただ暖かさに誘われて咲くわけではありません。前年の夏に形づくられた花芽は、いったん深い眠りに入り、冬の厳しい寒さを経験します。
一定期間しっかりと冷え込むことで、
はじめて目を覚ます。これが
「休眠打破」と呼ばれる現象です。
十分な寒さを経て、春先の
気温が上がったとき、花芽は一気に成長し、
開花へと向かいます。寒さは遠回りではありません。むしろ、春を咲かせるための準備期間。
目には見えないところで、確かな力が養われているのです。
人生もまた、同じではないでしょうか。
思うように進まない時間。成果が見えず、
立ち止まっているように感じる日々。その静かな冬こそが、
内側で根を張り、幹を太くする大切な期間なのだと思います。
すぐに花を咲かせようと
焦るときほど、自分を責めてしまいがちです。けれど本当は、
冷え込む時間があるからこそ、
次の季節に向けた準備が整う。外側の結果よりも
、内側の熟成に目を向けること。そこに人生の品格が宿ります。
桜前線は、南から北へとゆっくりと列島を彩ります。急ぐことなく、確かな順序を守りながら進んでいく。その姿は、私たちに
「貴方の歩幅でよい」と語りかけているようです。
大切なのは、出来事そのものよりも、それをどう
受け止めるかという姿勢です。
捉え方、感じ方、考え方――この三つが整うとき、
同じ出来事でもまったく違う意味を帯び始めます。外側の嵐に翻弄されるのではなく、内なる在り方を磨き続けること。そこにこそ、真の変化の芽があります。
再生は、外から与えられるものではありません。静かに、
自分の内側で起こる変容から始まります。
古い思い込みを手放し、新しい視点を迎え入れる。その
小さな選択の積み重ねが、やがて満開の景色をつくっていくのです。
寒さを越えた花は、ひときわ美しい。だからこそ私たちも、日々をていねいに生きたい。
目に見えない時間を信じ、内面を磨きながら、やがて訪れる
春を静かに待つ。
その歩みの先に、貴方自身の桜が、必ず咲きます。
越川 宗亮